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2020年度:全国高校入試問題における哲学・思想系課題文②【難関私立・国立編】

20年10月09日

 

公立編はこちら ↓

2020年度:全国高校入試問題における哲学・思想系課題文①

 

2020年度入試においては、

公立高校とは異なり、国立、私立高校では多数の学校で、

哲学・思想系の課題文が出題されました。

 

なかには、難解極まる文章もあり、

公立高校受験生は、

今後、国立、私立高校の生徒たちと大学受験という、

いわば「全国大会」で勝負することを考えれば、

国立、私立高校の問題にもチャレンジしてみるのもよいと思います。

 

それでは、出題高校とその出典についてみていきましょう。

 

広島大学附属高校

入不二基義『足の裏に影はあるか? ないか? 哲学随想』

 

 

この本は、

入不二先生による哲学的な思索についてのエッセイです。

 

出題箇所の「ゲームの階梯」は、

学生と興じたゲームを分析する内容ですが、

 

もちろんこれは、

われわれ人間がヴィトゲンシュタインの言う「言語ゲーム」の世界に、

「常にすでに」放り込まれている事態を示唆するものでして、

 

「ことばを使って生きている」というこのゲームをやめて、

「その外に立つことなど、決してできない」ことを述べています。

 

言語ゲームの世界からいわば逆照射される

私たちの(事実的)世界のあり方を思考したのが

ヴィトゲンシュタインですが、

 

そうした考察の入り口に立たせてくれる文章がこの箇所の内容です。

 

おまけに、

 

設問 問8

われわれが『ことばを使って生きている』ことと、

「この状況(ゲーム)」との共通点は何か、

六十字以内で説明せよ

 

という出題も素晴らしい。

 

この設問によって、

ヴィトゲンシュタインの言う「言語ゲーム」の世界に、

逃れがたい形で「常にすでに」放り込まれている事態を、

受験生にとらえさせようとする意図があるならば、

 

この箇所を出題する広島大学付属高校の試験は、

バカロレア級にセンスがいい。

 

 

開成高校

三谷尚澄『哲学しててもいいですか? :文系学部不要論へのささやかな反論』

 

 

本書については、

現行の大学生や高校生にも読んでもらいたい内容ですね。

 

出題箇所は、「悟り世代」と呼ばれる

いまどきの大学生たちが持つ安定志向の裏側にある、

「狡猾でルサンチマンに満ちた攻撃の論理」について

説明している箇所です。

 

思想というよりは、現代の若者論といった箇所の内容ですが、

 

本書全体は、

現在の大学や研究者のあり方、

学生のあり方、

大学や哲学の存在意義等を問い、

これから大学に行こうとするものは全員読んでおけ、

と言える内容です。

 

設問については、さすが開成。

すべて、「傍線部について説明せよ」という形式で、

本質的な読解の力を見る試験ですね。

 

 

久留米大学附設高校

岡本裕一朗『12歳からの現代思想』

 

 

岡本先生は、哲学や現代思想について一般向けに

分かりやすく語る著作を多数出されており、

 

アリストテレスからヘーゲル、

生命倫理を含む現代思想を広範に扱うことのできる

強力な研究者です。

 

課題文は、オリジナルとコピーの関係を分析し、

オリジナルの優位性を解体しながら、

コピーの本質を明らかにする文章です。

 

模倣(ミメーシス)という概念は、

古代ギリシアまでさかのぼる射程をもつ概念であり、

 

そのあり方を岡本先生が

わかりやすく語っている箇所からの出題です。

 

 

慶應義塾高校

内山節『「里」という思想』

 

 

課題文は、国の法律と地域の慣習の存在を示しながら、

 

21世紀を生きる私たちの世界が

多元性とともに多層性を持っていることを示唆する

問題文Ⅰと、

 

日本の伝統的な村や集落も

地域によってさまざまな共同体が成立していたことを述べる

問題文Ⅱからなります。

 

内山先生は、群馬の山村に畑を耕して生きる、

本物の「自然」哲学者です。

 

労働論から共同体論、教育論に至るまで

縦横無尽に論考を著作として発表なさっています。

 

エコロジーなんて、言葉をたやすく吐く前に、

内山節を読め!といいたいですね。

 

 

渋谷教育学園幕張高校

岡潔「宗教について」『岡潔集 第1巻』

 

 

岡潔は言わずと知れた日本を代表する大数学者ですね。

 

加えて、彼は思想家と言ってもいいほどの思索を見せる

エッセイストでもありました。

 

出典箇所も、数学者が宗教を語るという非常に興味深い部分です。

しかし、岡潔の古い本からよく出典を出してきますね(笑)。

 

岡のエッセイは、どれも非常におもしろいので、

おすすめです。文庫で手に入りますよ。

 

 

巣鴨高校

梶谷真司『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』

 

 

課題文は、哲学あるいは哲学的問いについて、

過不足なく真正面から説明する骨太な文章です。

 

梶谷先生は、現象学や倫理学、

さらには医学史(特に江戸の医学)までご専門とする

学界のスーパーマルチプレイヤーです。

 

 

多摩大目黒高

真木悠介「彩色の精神と脱色の精神」『気流の鳴る音―交響するコミューン』より

 

 

課題文は、『更科日記』とフロイトの精神分析における

夢の扱われ方の差異を取り上げたうえで、

近代合理主義の逆説を喝破してみせる

非常に刺激的かつおもしろい論考です。

 

「真木悠介」はペンネームであり、東大の見田宗介先生ですね。

 

ご専門は社会学ですが、

そうした学問的枠組みにとらわれない

知の巨人であり、思想家です。

 

 

 

 

 

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